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長野地方裁判所松本支部 平成8年(ワ)136号 判決

原告 美麻村

右代表者村長 吉沢義夫

右訴訟代理人弁護士 宮澤建治

同 中嶌知文

同 田下佳代

被告 有限会社 大高環境保全サービス

右代表者代表取締役 須澤豊夫

右訴訟代理人弁護士 三浦守孝

主文

一  被告は、別紙物件目録記載の土地に産業廃棄物最終処分場を建設してはならない。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者等

(一) 原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件予定地」という。)から約五〇〇メートル離れた地点を水源(以下「二重水源」という。)とする次の概要の二重簡易水道施設(以下「本件水道施設」という。)を所有し管理するものである。

(1) 創設年月日

昭和五五年四月一日

(2) 水源、取水方法及び取水量

長野県北安曇郡美麻村字ハンノ木原七六四一番四土地の地下水を水源とする取水池(二重水源)があり、深度一一四メートルのボーリングを行い、一八・五ないし三五メートル、四六ないし六二・二メートル、六八ないし七三・五メートル、八四・五ないし九五・五メートルの四か所にストレーナー(すき間のある部分)を設け、ストレーナーから入る水を揚水ポンプで汲み上げている。

現在の取水可能量は、一日当たり約四五〇立方メートルである。

(3) 浄水方法

二重水源で取水した地下水は、法令による水質基準を満たしているため、取水した水を貯水するタンクに次亜塩素酸ソーダを注入する方法によって塩素減菌を行っているのみである。

(4) 給水方法、給水区域、給水人口及び給水量

二重水源で取水した水を右の方法で減菌した上で、二か所の配水池に送水し、ここから各戸に有料で給水しており、給水区域は、村内の元の関、向、向山、宮村地区で、給水人口は二一〇人、給水量は一日当たり約四八立方メートルである。

(二) 被告は、産業廃棄物の収集、処理、中間処理(破砕)業及び産業廃棄物最終処分場の経営等を目的とする有限会社である。

被告は、平成六年八月二五日、次の事業の範囲及び許可の条件の下に、長野県知事より廃棄物の処理及び清掃に関する法律一四条四項の許可を受け、自社で破砕した産業廃棄物を最終処分するため、2記載の産業廃棄物最終処分場(以下「本件処分場」という。)の設置を計画している。

(1) 事業の範囲

① 事業の区分

中間処理(破砕)

② 破砕する産業廃棄物

廃プラスチック類、ガラスくず及び陶器くず(以上、いずれも特別管理産業廃棄物であるものを除く。)、建設廃材(特定有害産業廃棄物であるものを除く。)、木くず

(2) 許可の条件

中間処理は次の施設で行うこと。

破砕施設の所在地 大町市大字平一二五九―一

処理能力 一日当たり三・六トン

2  本件処分場の概要

(一) 所在地

本件予定地

(二) 対象廃棄物

被告が中間処理する廃棄物のうち、木くずを除いた安定四品目(いわゆる「安定五品目」のうちの安定四品目に当たる廃棄物、以下「安定四品目」という。)

(三) 処分形態

被告が中間処理(破砕して容量を減らす)した安定四品目を本件予定地に埋立処分する。

(四) 規模

二年程度の期間に約三〇〇〇〇立方メートルを埋め立てる。

(五) 構造、排水設備等

(1) 本件処分場は、埋立場所を掘り下げて素堀りの穴を設け、斜面の下方に盛土をして擁壁を築いた上、右の穴に廃棄物を投棄し、その上に覆土をするというものである。

(2) 右の擁壁の外側には、地表水を排水するため、土側溝が設けられ、原告の管理する水路(青線)に接続される予定である。

右水路は、本件予定地及び二重水源のある谷に沿って流下し、一級河川金熊川に流入しているが、二重水源より上流の部分は、大半が素掘りのままの状態である。

また、本件処分場の上部には、上部からの流入水を排水するため、深さ四メートルの集水井が設けられる予定である。

(3) 埋立地の底部には、そこに溜まった廃棄物からの浸出水を排水するため、十字に有孔管が設置され、擁壁の外側の土側溝に接続される予定であるが、本件処分場の内壁面や底面には、廃棄物からの浸出水の地下浸透を遮断するための設備を設けることは何ら予定されていない。

(六) 設置に対する許可等について

本件処分場は、面積が三〇〇〇平方メートル未満であるため、その設置については廃棄物の処理及び清掃に関する法律一五条一項の許可は要しないが(同法施行令七条一四号ロ)、長野県では、このような処分場においても、産業廃棄物埋立処分にかかる届出指導要領に基づき、事前に産業廃棄物埋立処分計画届出書に埋立地の構造を示す各種図面(平面図、縦断面図、横断面図、容積計画書)等所定の書類を添えて知事に届け出るよう行政指導を行っているところ、被告は、右届出を行っていない。

3  本件処分場が二重水源に及ぼす影響

(一) 本件処分場からの有害物質排出の可能性

本件処分場は、安定四品目を処分の対象とするいわゆる安定型処分場である。

安定型処分場については、対象品目が環境に及ぼす影響は少ないとされており、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、同法施行令によっても地中への埋立処理が認められており、廃水処理施設の設置は義務づけられていない。

しかしながら、現実には、安定五品目以外の廃棄物が混入されてもこれをチェックすることは事実上不可能であり、実際に処分場に搬入される廃棄物が安定五品目だけか否かの分別は、ほとんどなされていないこと、安定五品目に分別不能な有機物、腐敗物等が付着している例(例えばプラスチック容器に内容物が残存していたり、建設廃材に薬剤が付着していたりする例)が多いこと、さらに安定五品目自体についても、金属くずに防災用スプリンクラーなどに用いられるカドミウム合金や水道管の鉛が含まれること、廃プラスチックに重金属が含まれるといった問題点があることなどから、安定型処分場であっても、有害物質を含んだり異常な汚れや臭気を伴った汚水の排出は避けられない状況にあり、各地で環境汚染の実例も報告されている。

ちなみに環境庁も右のような実例を踏まえ、平成七年度から五年間をかけて一〇〇か所の安定型処分場を選び、地下水、河川、周囲の土壌への有害物質による汚染状況、安定五品目以外の廃棄物の混入状況やその性質、処分場設置場所の地形や地質ごとの汚染の程度等を調査し、これをもとに構造・維持管理の基準の見直しや、安定五品目が妥当かどうかの洗い直しなどを行うと発表している。

右のような安定型処分場の現状からすれば、本件処分場からも右のような汚水の排出される蓋然性は極めて高いが、前述のとおり、本件処分場には、内壁面や底面に水の地下浸透を遮断するための設備を設けることは何ら予定されていないので、廃棄物からの浸出水がそのまま地下に浸透することは確実である。また、地表水や埋立部分の底部に溜まった排出水は、前記のとおり、擁壁の外側に設けられる土側溝を通じて原告の管理する水路(青線)に流入するが、土側溝はもとより、右水路(青線)も大半は素堀のままであるから、これが流下する過程で地下浸透することも確実である。

さらに、右の土側溝や水路(青線)の流下能力も明らかでなく、大量の降雨のあった際には、汚水があふれ出てそのまま周辺から地下浸透する可能性もある。

(二) 本件予定地付近の地形、二重水源との位置関係

本件予定地付近は、北側からの斜面と西側の少規模な尾根に挾まれた谷状の地形を呈している。この谷は、西側の尾根との比高が二〇メートル前後の比較的浅い谷であり、ほぼ北西から南東方向に伸びているところ、本件予定地は、この谷の最上部に当たる谷頭と呼ばれる場所にあり、本件予定地から一〇〇メートルほど南へ下ると西側からの小さな沢と合流し、南東へ伸びる明瞭な谷となっている一方、二重水源は、本件予定地から南東へ伸びる谷の延長に位置し、本件予定地との距離は約五〇〇メートルである。

(三) 環境影響調査の結果

原告は、北陽建設株式会社に依頼し、平成六年七月から一一月にかけて本件予定地の南東下方約一〇メートルの地点で深度五〇メートルと深度一五メートルの調査ボーリング二本を行い、地質調査、現場透水試験、孔内流向流速測定、孔内水位観測、水質分析等を行ったが、その調査結果の概要は次のとおりである。

(1) 調査地点の地下構造は、深度三・五メートル付近までは崩積土でローム質土であり、その下位は、深度七・九メートルまでは硬質な凝灰岩、深度七・九ないし二五・九五メートルは礫岩層、深度二五・九五メートル以深は角礫凝灰岩層となっている。

(2) 調査地点の現場透水試験の結果によれば、礫岩部を中心とする範囲と角礫凝灰岩の上部に帯水層が認められ、特に礫岩層の深度一〇ないし二〇メートル付近にやや良好な帯水層の存在が認められる。

地表部のローム層は、透水性は小さいが、含水比が高く、岩盤の弱線を通過するいわゆるミズミチが形成されているものと考えられる。

(3) ボーリング孔内の深度九・七メートルの地点と一三・三五メートルの地点で地下水の流向、流速を測定したところ、深度九・七メートルでは、流向が東南東方向、流速が〇・〇〇一四三センチメートル毎秒、深度一三・三五メートルでは流向が南方向、流速が〇・〇〇四一二センチメートル毎秒であった。

(4) ボーリング孔内の地下水位の変化を観測したところ、深度一五メートルでは、降雨と関連した顕著な地下水位変化が認められ、かつ応答速度も速いことから、浸透水の影響を直接受ける浅層地下水であると考えられる。

(5) 調査地点の上流六か所の湧水及び調査ボーリングの孔内水、二重水源の地下水を採取して行った水質分析の結果によれば、その水質がいずれも類似している。

(四) 専門家の意見

原告は、右の調査結果を踏まえ、信州大学地学教室赤羽貞幸助教授に本件処分場が下流域の水源に及ぼす影響について意見を求めたが、その結果は次のとおりであった。

(1) 本件予定地付近の表流水や地下水は、地形特性、帯水層となる地層の分布、構造からみて、南東側に流下することは間違いなく、したがって、本件処分場で投棄され、漏出した汚染物質は、表流水及び地下水とともにほぼ南東方向に伸びる谷に沿って流下し、二重水源を汚染することになる。

(2) 二重水源は、地下一八メートルから九五メートルの深さにわたって各深度から取水しているため、特に浅い地下水の汚染の影響を受けやすい。

(3) 本件予定地と二重水源の距離が五〇〇メートルと近いため、強い影響が現われやすい。

(4) 二重水源の一部は、水源の北西側から供給されているところ、本件予定地はこの方向の沢の上流に当たることから、影響を及ぼすことは免れない。

(5) 本件予定地は谷頭にあり、地下水の湧水場所であって、汚染物質が投棄され、漏出すると、表流水及び地下水とともに拡散されやすい条件を備えている。

(6) 以上により、本件処分場に汚染物質が投棄され漏出した場合には、二重水源並びに下流域に大きな影響を与えることは確実である。

4  結論

以上の点から、本件処分場が建設されて稼働した場合、有害物質を含んだり異常な汚れや臭気を伴った汚水が排出され、これがそのまま地下に浸透することは明らかであり、本件予定地付近の地形・地質・水理的条件に照らし、右の汚水が二重水源を汚染する蓋然性は極めて高い。

原告は、本件水道施設を所有管理し、これを村民の飲用、生活用に供給しているところ、二重水源の汚染という事態が発生すれば、これを村民に供給することは不可能となり、重大な損害を被るので、被告に対し、所有権に基づき、本件処分場の建設を差し止める権利を有する。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(当事者等)(一)は不知。

(二) 同(二)は認める。

2(一)  同2(本件処分場の概要)のうち(一)ないし(四)は認める。

(二) 同(五)は否認ないし争う。

(三) 同(六)のうち「本件処分場は、面積が三〇〇〇平方メートル未満であるため、その設置については廃棄物の処理及び清掃に関する法律一五条一項の許可は要しない。」との主張は認め、その余は不知。

3(一)  同3(本件処分場が二重水源に及ぼす影響)(一)のうち、「本件処分場は、安定四品目を主たる処分の対象とするいわゆる安定型処分場である。安定型処分場については、対象品目が環境に及ぼす影響は少ないとされており、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、同法施行令によっても地中への埋立処理が認められており、廃水処理施設の設置は義務づけられていない。」との主張は認め、「ちなみに環境庁も右のような実例を踏まえ、平成七年度から五年間をかけて一〇〇か所の安定型処分場を選び、地下水、河川、周囲の土壌への有害物質による汚染状況、安定五品目以外の廃棄物の混入状況やその性質、処分場設置場所の地形や地質ごとの汚染の程度等を調査し、これをもとに構造・維持管理の基準の見直しや、安定五品目が妥当かどうかの洗い直しなどを行うと発表している。」との主張は不知、その余は否認ないし争う。

(二) 同(二)及び(三)は不知。

(三) 同(四)は否認ないし争う。

4  同4(結論)は否認ないし争う。

三  被告の主張

1  純粋な安定五品目の選別

(一) 本件処分場は、長野県大町市内にある被告所有の中間処分場(以下「本件中間処分場」という。)の付随施設としての自社処分場であり、大町市の建設業者が持ち込んだ産業廃棄物を一度仕分け分類し、環境に影響を与えることはないと考えられるところの純粋な安定四品目のみを選定した上で破砕処分した後、右安定四品目のみを埋立処分するものである。

したがって、徹底した分別が可能であり、安定四品目以外の物品が混入するなどの危険は皆無である。

(二) 本件中間処分場における分別の方法は、特定の契約業者等から搬入された廃棄物を手により仕分け作業し、安定四品目以外の廃棄物が混入していた場合には、業者に持ち帰ってもらうか被告が別途処理をしている。そして、本件中間処分場に廃棄物を持ち込む業者は、現在八社から一〇社で、安定四品目以外の混入があれば、直ちに中間処分場での処分を拒否するところ、創業以来今日まで、有害物質や安定四品目以外の廃棄物が混入した事例は皆無である。

(三) さらに、安定四品目に関する分別のため、被告は、自社でマニフェスト表を作成し、業者に対してその提出を義務づけており、本件中間処分場の段階で十分な仕分けが可能である。

(四) 原告が主張する安定型処分場の環境汚染の危険性は、全て一般的な産業廃棄物の最終処分場のうちの安定型処分場についてのものであって、本件のように、被告の所有・管理する中間処分場の付随施設としての本件処分場については、他の一般的な最終処分場と同一の議論はなし得ず、環境庁の調査も、本件のような中間処分場の付随施設としての安定型処分場の事例については行われていない。

本件処分場では、本件中間処分場において二重、三重に選別して破砕処理した安定四品目のみを埋め立てるのであるから、環境汚染の危険性はない。

2  汚水について

(一) 原告は、本件処分場から廃棄物を原因とする汚水が排出される蓋然性を指摘するが、これは分別収集が徹底していない場合のことであって、前記のとおり、被告は、本件中間処分場で純粋な安定四品目のみを分別した上、中間処分をしており、汚水の生じるような廃棄物は、本件中間処分場の段階で排除されるから、汚水が排出される蓋然性は皆無である。

(二) 本件予定地の地表部のローム層は、不透水性の地盤であることから、本件処分場に投棄・埋め立てられた産業廃棄物の間を通過した雨水が土中に浸透して地下水に混入したり、二重水源に混入したりすることはない。

(三) 仮に、有害物質が混入することにより本件処分場からの排出水が汚染されていたとしても、右排出水が二重水源に到達するまでの間に相当希釈されるし、被告は、水質汚濁の兆候が認められれば、直ちに有効な措置を講ずる予定である。

3  被告の技術水準

(一) 産業廃棄物の処理業務を行うに当たっての適合条件である資格審査は、監督官庁においてなされるところ、被告は、平成六年八月二五日付けで、中間処理(破砕)の産業廃棄物処分場の新規許可を受けており、処分場運営に必要な技術、施設及び専門的知識を有している。

(二) 原告の主張する処分場の危険性は、一般的な廃棄物の安定型処分場における事案についてのものであり、事故の多くは、廃棄物の不法投棄によるものや、専門的知識の欠如等人為的なものが大半であり、また、現在と比較して廃棄物の処理技術が未発達であって、業者の処理業務遂行の知識習得が不十分であった時代のものであるところ、本件処分場のように、コンサルタントを招き、環境保全措置を講じている場合には、全く当てはまらない。

4  本件処分場の構造について

(一) 産業廃棄物の最終処分場設置に当たっては、「産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令」(昭和五二年総理府・厚生省令第一号)に準じるほか、長野県産業廃棄物の最終処分場に係る指導基準によって、その構造基準、浸出水の管理方法等が示されている。

(二) 本件処分場の設置計画書によれば、埋立容量は、廃棄物七三五五・五一立方メートル、覆土二六四九・九三立方メートルとなっており、埋立地内の切取土の法面並びに盛土面の法面においての斜面の勾配は三三・六九度の安定勾配が確保され、埋立完了時における斜面の勾配においても、二九・〇五度、三三・六九度の安定勾配が確保されて、埋立方法については、廃棄物と接触した覆土による濾過処理効果も考慮されたセル方式覆土埋立と中間覆土埋立の併用埋立工法が採用されている。

(三) 以上のような本件処分場の構造・設備及び埋立工法は、長野県産業廃棄物の最終処分に係る指導基準により定められた適正処理レベルの効果を期待できる諸基準の所定の範囲内にあると思われるが、さらに次の改善工事を施すことにより、適正処理レベルの構造が図られるところ、被告は、右工事を施工することを誓約する。

① 道路側に周辺部集排水溝を設置することにより、本件処分場への雨水の流入を軽減する。

② 本件処分場内の集水施設を利用して埋立地内の水抜きをし、浸出水の地下浸透を軽減するとともに、流末において、濾過処理施設を設置して水質浄化を行う。

③ 周辺部排水溝は土側溝ではなく、コンクリート製U字溝等の敷設により埋立地内への雨水の浸透防止を図る。

④ 素堀の埋立部分については、田口式土質改良剤を敷設するビースター工法を施工して凝結硬化させることにより、廃棄物からの浸出水の流出防止を図る予定であり、さらにはゴム、ビニールシートを設置することも可能である。

5  その他

(一) 本件処分場の危険性はあくまで抽象的なものである上、行政上右処分場の設置は許されているのであるから、右設置を裁判所において否定することは、行政権への不当な介入であって、個人の営業の自由、財産権に対し著しい制限を課すものである。

(二) 被告代表者江原虎一が死亡したことにより、本件処分場の建設計画は中止となっており、本件予定地の一部(別紙物件目録記載一の土地)については、賃料不払いを理由として賃貸借契約が解除され、被告は使用権を失っている。

したがって、本件処分場建設による二重水源汚染の危険性はないので、本件訴えは、訴えの利益を欠き、却下あるいは棄却されるべきである。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  被告は、原告の主張する安定型処分場の危険性は、あくまで推測の域を出ないものであり、これまで発生した事故も多くは人為的なもので、現在と比較して廃棄物の処理技術が未発達で、業者の処理業務遂行の知識が不十分であった時代のものであるなどと主張している。

しかしながら、右主張は、安定型処分場が社会問題化していることを全く無視したものであり、安定五品目以外の物質が混入するなどの危険性は、これまでの仮処分決定例でも度々指摘され、環境庁も、安定型処分場の実態調査を行って、処分場の構造・維持管理の基準等を見直すと発表し、さらには厚生省も、最終処分場に対する規制の強化や設置手続の透明化等を盛込んだ廃棄物処理法の改正作業に入る方針を打ち出し、長野県下においても、長野県水環境保全条例が制定されたり、弁護士会が知事に対して今後一切の安定型処分場の建設を禁止するよう求める旨の提言を行っている。

2  被告は、本件処分場は、本件中間処分場で破砕処理した廃棄物を埋立処分するための自社処分場であり、中間処分の過程で徹底した分別が可能であるから、安定五品目以外の廃棄物が混入するおそれは皆無であると主張するが、中間処分業者が自社で中間処理をした後の廃棄物を最終処分する場合には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律一四条四項但書により最終処分業の許可は不要とされており、また安定型処分場で面積が三〇〇〇平方メートル未満のものであれば、設置について同法一五条一項の許可も要しないとされているため、全く許可なくして中間処分した後の大量の廃棄物を最終処分できるという「法の抜け道」が存在するとかねてから批判されており、不法投棄がされる危険性は、このような法の規制の及ばないいわゆる「ミニ処分場」のほうが高く、それ故厚生省も「ミニ処分場」を全て許可制とする法改正を行う方針を発表しており、本件処分場はこの抜け道を利用して設置されるものであって、有害物質混入のおそれは、本件のような中間処分業者の設置する処分場と一般の最終処分場とで、何ら差異はない。

3  また、次のとおり、被告の主張するような中間処分の過程での分別は全くなされていないのが現状である。

(一) 被告に中間処分を委託していた大町市の建設業者に原告が聞き取りを行ったところでは、同社は、工事現場にコンテナを置き、これに作業に伴って出る廃棄物を随時入れていき、コンテナが一杯になれば収集運搬業者がこれを本件中間処分場に運んでいるが、右コンテナ内には、作業現場で出たあらゆる廃棄物を投げ入れており、安定五品目とそれ以外の廃棄物とを分別する作業は行われていないとのことであった。

(二) 被告は、業者に対し、マニフェスト表の提出を義務づけているので、中間処分場の段階で安定五品目の仕分け分類が可能であるというが、マニフェストシステムは、処分場に搬入される廃棄物を直接チェックする方法と比べ、間接的方法にとどまることは、従来の裁判例がいずれも指摘するところであり、被告が書証として提出するマニフェスト表においても、廃棄物の内容については、「建廃(建設廃材)」「廃プラ(廃プラスチック)」などとその種類が記載されるに過ぎず、マニフェスト表によって搬入された廃棄物の具体的な内容物を把握することまでは不可能である。

(三) さらに被告は、本件中間処分場に運び込まれた廃棄物は人手による仕分け作業を行った上、破砕処理をしていると主張するが、そのような仕分け作業が行われている形跡は全くない。

現実問題としても、被告の処分場に持ち込まれる膨大な量の廃棄物(許可条件では一日当たり三・六トン)について、一つ一つ人手による仕分け作業を行うことは不可能であり、原告関係者によって、本件中間処分場で破砕される廃棄物の中に安定五品目以外の物品が混入していることが現認されている。

(四) 被告は、本件処分場の安全性を向上させる改善策として、①道路側に周辺部集排水溝を設置することにより、本件処分場への雨水の流入を軽減する、②本件処分場内の集水施設を利用して埋立地内の水抜きをし、浸出水の地下浸透を軽減するとともに、流末において、濾過処理施設を設置して水質浄化を行う、③周辺部排水溝は土側溝ではなく、コンクリート製U字溝等の敷設により埋立地内への雨水の浸透防止を図る、④埋立部分についてはビースター工法を採用する、の四点を挙げるが、①については、本件処分場の後背地からの表流水の埋立地への流入を防止することはできても、埋立地内に直接降った雨水の地下浸透を防止することはできず、排水溝の処理能力にも限界があることから、多量の降雨時には溢水が生じることが予想され、②については、埋立地の内壁面や底面に浸出水の地下浸透を遮断する防水シート等がない以上、埋立地内の水の直接の地下浸透を防ぐことはできず、濾過処理施設の機能も不明であり、③については、周辺部集排水溝をコンクリート製としても、右排水溝に集められた水は、結局被告の管理する素堀の青線につなげて排出されるのであるから、流下の過程で地下浸透することは避けられず、①同様、溢水の可能性もあり、④については、ビースター工法を施した土壌は、透水性、通気性がよくなるとされているので、本件では、本件処分場からの浸出水の地下浸透をさらに助長することになって逆効果であり、重金属の溶出防止効果、耐久性についての実証的なデータも存在しない。

第三証拠《省略》

理由

一  本件の争点は、本件処分場の設置・稼働により二重水源を汚染される危険性が生じるか否かであるが、これを判断するためには、二重水源を水源とする本件水道施設の概要(請求原因1(一))及び本件処分場の構造等(請求原因2(五))を明らかにしなければならないところ(なお、被告の事業の範囲、本件処分場の構造を除く本件処分場の概要については、当事者間に争いがない。)、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  本件水道施設の概要

原告は、本件予定地から約五〇〇メートル離れた二重水源を水源とする次の概要の本件水道施設を所有し管理するものである。

(一)  創設年月日

昭和五五年四月一日

(二)  水源、取水方法及び取水量

長野県北安曇郡美麻村字ハンノ木原六四一番四土地の地下水を水源とする取水池(二重水源)があり、深度一一四メートルのボーリングを行い、一八・五ないし三五メートル、四六ないし六二・二メートル、六八ないし七三・五メートル、八四・五ないし九五・五メートルの四か所にストレーナー(すき間のある部分)を設け、ストレーナーから入る水を揚水ポンプで汲み上げている。

現在の取水可能量は、一日当たり約四五〇立方メートルである。

(三)  浄水方法

二重水源で取水した地下水は、法令による水質基準を満たしているため、取水した水を貯水するタンクに次亜塩素酸ソーダを注入する方法によって塩素減菌を行っているのみである。

(四)  給水方法、給水区域、給水人口及び給水量

二重水源で取水した水を右の方法で減菌した上で、二か所の配水池に送水し、ここから各戸に有料で給水しており、給水区域は、村内の元の関、向、向山、宮村地区で、給水人口は二一〇人、給水量は一日当たり約四八立方メートルである。

2  本件処分場の構造等

(一)  本件処分場は、埋立場所を掘り下げて素堀りの穴を設け、斜面の下方に盛土をして擁壁を築いた上、右の穴に廃棄物を投棄し、その上に覆土をするというものである。

(二)  右の擁壁の外側には、地表水を排水するため、土側溝が設けられ、原告の管理する水路(青線)に接続される予定である。

右水路は、本件予定地及び二重水源のある谷に沿って流下し、一級河川金熊川に流入しているが、二重水源より上流の部分は、大半が素掘りのままの状態である。また、本件処分場の上部には、上部からの流入水を排水するため深さ四メートルの集水井が設けられる予定である。

(三)  埋立地の底部には、そこに溜まった廃棄物からの浸出水を排水するため、十字に有孔管が設置され、擁壁の外側の土側溝に接続される予定である。

(四)  設置に対する許可等について

本件処分場は、面積が三〇〇〇平方メートル未満であるため、その設置については廃棄物の処理及び清掃に関する法律一五条一項の許可は要しないが(同法施行令七条一四号ロ)、長野県では、このような処分場においても、産業廃棄物埋立処分にかかる届出指導要領に基づき、事前に産業廃棄物埋立処分計画届出書に埋立地の構造を示す各種図面(平面図、縦断面図、横断面図、容積計画書)等所定の書類を添えて知事に届け出るよう行政指導を行っているところ、被告は、右届出を行っていない。

二  以上を前提に、さらに本件処分場と二重水源の位置関係、付近の地形及び地下の地質構造並びに地下水の流れなどについて検討するに、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  本件予定地付近の地形、二重水源との位置関係

本件予定地付近は、北側からの斜面と西側の小規模な尾根に挾まれた谷状の地形を呈している。この谷は、西側の尾根との比高が二〇メートル前後の比較的浅い谷であり、ほぼ北西から南東方向に伸びているところ、本件予定地は、この谷の最上部に当たる谷頭と呼ばれる場所にあり、本件予定地から一〇〇メートルほど南へ下ると西側からの小さな沢と合流し、南東へ伸びる明瞭な谷となっている一方、二重水源は、本件予定地から南東へ伸びる谷の延長に位置し、本件予定地との距離は約五〇〇メートルである。

2  本件予定地付近における表流水及び地下水の流れ

表流水の流れは、基本的に斜面の傾き方向に支配されるところ、本件予定地付近の沢には、南西側斜面、北東側斜面及び北西側斜面からの表流水が流れ込み、南東側に流れ下る。

地下水の流れは、基本的に地形・地下の地質構造に支配されるところ、本件予定地は、南東側に流れる沢の最上部に位置するので、この場所における主な地下水の流れは、沢の方向に沿った流れであると推定される。また、本件予定地付近の地質は、礫層などからなり、地下水は一般的に礫層中のほうが流れやすいところ、右地層は、北東側に三〇ないし四〇度傾いており、地下水は、この傾きと直交する南東方向に流れやすい(これは、次項の環境影響調査の中で判明した地下水の流れからも裏付けられる。)。

3  環境影響調査の結果

原告が、北陽建設株式会社に依頼し、平成六年七月から一〇月にかけて、本件予定地の南東下方約一〇メートルの地点で深度五〇メートルと深度一五メートルの調査ボーリング二本を行い、地質調査や現場透水試験、孔内流向流速測定、孔内水位観測、水質分析等を行った調査結果の概要は、次のとおりであった。

(一)  調査地点の地下構造は、深度三・五メートル付近までは礫混じり粘性土の土砂を含む崩積土でローム質土であり、その下位は、深度七・九メートルまでは硬質な凝灰岩、深度七・九ないし二五・九五メートルは礫岩層、深度二五・九五メートル以降は角礫凝灰岩層となっている。

(二)  調査地点の現場透水試験の結果によれば、礫岩部を中心とする範囲と角礫凝灰岩の上部に帯水層が認められ、特に礫岩層の深度一〇ないし二〇メートル付近に透水係数の高い(地下水を通しやすい)やや良好な帯水層の存在が認められる。

地表部のローム層は、透水性は小さいものの含水比が高く、ローム層を徐々に浸透した地下水が下位の岩盤部において弱線を通過する、いわゆるミズミチが形成されているものと考えられる。

(三)  ボーリング孔内の深度九・七メートルの地点と一三・三五メートルの地点で地下水の流向、流速を測定したところ、深度九・七メートルでは、流向が東南東方向、流速が〇・〇〇一四三センチメートル毎秒、深度一三・三五メートルでは、流向が南方向、流速が〇・〇〇四一二センチメートル毎秒であった。

(四)  ボーリング孔内の地下水位の変化を観測したところ、深度一五メートルでは降雨と関連した顕著な地下水位変化が認められ、かつ応答速度も速いことから、浸透水の影響を直接受ける浅層地下水であると推測される。

深度五〇メートルでは、地下水位変化が極めて少なく、まとまった降雨時には、降水日より四ないし五日遅れて三〇センチメートル程度の地下水位変化が観測され、深い地下水循環系の水位であると推測される。

(五)  調査地点周辺の湧水及び調査ボーリングの孔内水(深度四七メートル)、二重水源の地下水を採取し行った水質分析の結果によれば、これらの水質はいずれも類似していた。

(六)  また、右調査に加え、融雪及び降水と地下水位の変動について調査したところ、二重水源の井戸においては、降雨後短時間で自噴現象が認められ(自噴のピークは、降雨のピークから約五日後である。)、本件予定地付近の深度一五メートル付近の地下水も、降雨後短時間で水位の上昇が認められることから、いずれも地表面からの水の流入の影響を受けやすいことが明らかである。

以上の事実によれば、信州大学地学教室赤羽貞幸助教授が指摘するとおり、本件予定地付近の表流水や地下水は、本件予定地が谷頭にあり、地下水の湧水場所であるという地形特性、帯水層となる地層の分布、構造からみて、谷に沿って本件予定地の南東側の二重水源に向けて流下すること、本件予定地と二重水源の距離が五〇〇メートルと近いことに加え、二重水源は、地下一八メートルから九五メートルの深さにわたって各深度から取水しているので、特に浅い地下水の影響を受けやすいこと、二重水源の一部は、水源の北西側から供給されており、本件予定地がこの方向の沢の上流に当たることなどに照らし、本件予定地に汚染物質が投棄され、これが漏出した場合、表流水及び地下水を通じて二重水源を汚染する高度の蓋然性が認められるというべきである。

以上のとおり、本件処分場に汚染物質が投棄され、これが漏出した場合には、二重水源に重大な影響を与えることは確実である。

三  そこで、次に、本件処分場の汚染物質が投棄されるおそれ及びその漏出の可能性について検討する。

1  《証拠省略》によれば、本件処分場は、被告が長野県大町市に設置する本件中間処分場で安定四品目を選別した上で、中間処理(破砕)した後の廃棄物を埋立処分するものであるところ、本件中間処分場における廃棄物の受入れにつき、被告と委託者との間で、委託者は、処分を委託する産業廃棄物に有害な化学反応を起こさせる他の物質を混入してはならないこと、万一混入したため、委託を受けた業務に重大な支障を生じ、または、生ずるおそれのある場合には、被告は、委託物の引取りを拒むことができ、損害賠償責任を追及できる旨の契約がなされ、実際の搬入に当たっては、産業廃棄物受入書(マニフェスト)が作成・提出され、右書類に持ち込んだ廃棄物名と数量、右廃棄物を持ち込んだ業者名を記載することになっていることを認めることができる。

2  しかしながら、《証拠省略》によれば、本件中間処分場に搬入された廃棄物は、様々な種類の物品が渾然一体となって持ち込まれ、異臭が認められるなど、安定五品目以外の物質が付着・混入していることは明らかである。被告は、安定四品目以外の廃棄物及び木くずは、人手による仕分け作業をしていると主張するが、被告の主張によっても、右作業に携わる人員は、搬入される多量の廃棄物に対しわずか二名にすぎず、これで安定四品目以外の廃棄物を確実に選別できるとは到底認め難い。

3  本件処分場の構造等は、前記認定のとおりであるところ、被告は、汚水流出防止のため、本件処分場内の集水施設を利用して埋立地内の水抜きをし、浸出水の地下浸透を軽減するとともに、流末において、濾過処理施設を設置して水質浄化を行う、周辺部排水溝は土側溝ではなく、コンクリート製U字溝等の敷設により埋立地内への雨水の浸透防止を図る、埋立部分の内壁面や底面にビニールシートを設置し、素堀の埋立部分についてはビースター工法を採用するなどと主張するが、ビースター工法は、土壌の固化に優れた性能を発揮し、重金属の溶出防止の効果を持つとされる一方、これにより形成された地層は、連続気孔体となって、透水性・通気性を改良するともされているので、逆に、本件処分場からの汚染水の土壌への浸透を防ぐ効能が期待できないのではないかとの疑問が生じ、この埋立地内の浸出水の直接の地下浸透を防ぐためにビニールシートを設置したとしても、周辺部排水溝に集められた水は、原告の管理する素堀の青線に流出するのであるから、流下の過程で地下に浸透することは避けられず、また多量の降雨時における溢水の危険性も否定できず、その他の被告の主張するいずれの汚水流出防止の方策も右危険性を否定することはできない。

4  従来、安定型処分場においては、処理物を安定五品目に限定していることから、周囲への環境汚染の心配はないとされていたが、《証拠省略》によれば、実際には、安定五品目以外の廃棄物が埋立処分され、周辺環境を汚染している等の例が見られるが、これからすると、安定五品目以外の廃棄物が混入されてもこれをチェックすることは事実上不可能であり、処分場に搬入される廃棄物が安定五品目だけか否かの分別もほとんどなされておらず、しかも安定五品目に分別不能な有機物、腐敗物等が付着している例(例えばプラスチック容器に内容物が残存していたり、建設廃材に薬剤が付着していたりする例)が多く、さらに安定五品目自体についても、金属くずに防災用スプリンクラーなどに用いられるカドミウム合金や水道管の鉛が含まれ、廃プラスチックに重金属が含まれるといった問題点があることなどから、安定型処分場であっても重金属、ダイオキシン、環境ホルモン等の有害物質が検出されたり、異常な汚れや臭気を伴った汚水の排出は避けられない状況にあり、各地で環境汚染の実例さらにはゴムシート等が敷設された管理型処分場においても、シートが破損するなどして、汚染物質の流出が発生した事例のあることも報告されており、このような事態を踏まえ、厚生省、環境庁等において、安定型処分場における埋立品目・管理方法等の見直しが行われていることが認められる。

右事実によれば、本件中間処分場において、安定五品目と他の物品との分別が十分になされているとは到底認めることはできず、安定四品目のみを分別して本件処分場に投棄することは困難であることが認められる。

そして、被告は、いくつかの汚染物質浸出防止策を主張するが、先にもみたように、その実効性については多大な疑問があり、安定四品目以外の汚染物質が埋め立てられた場合、これが漏出する高度の危険性が認められるといわざるを得ない。

四  以上のとおり、本件処分場から汚染物質が流出した場合、二重水源が汚染されることは確実であるところ、被告の主張する汚染防止策では、本件処分場からの汚染物質の漏出を完全に防ぐことはできないものと認められるから、本件処分場が建設された場合、二重水源が汚染され、その所有目的である住民への給水が不可能となることは明らかであり、したがって、原告の所有権に基づく本件差止請求は理由があるというべきである。

五  これに対し、被告は、本件処分場の危険性はあくまで抽象的なものである上、行政上右処分場の設置は許されているのであるから、右設置を裁判所において否定することは、行政権への不当な介入であって、個人の営業の自由、財産権に対し著しい制限を課すものである旨主張するが、これが認められないことはこれまでに認定された事実から明らかである。

また、被告は、被告代表者江原虎一が死亡したことにより、本件処分場の建設計画は中止となっており、かつ、別紙物件目録記載一の土地については、賃料不払いを理由として賃貸借契約が解除され、本件処分場建設による二重水源汚染の危険性はないので、本件訴えは、訴えの利益を欠き、却下あるいは棄却されるべきと主張するが、本件処分場の建設を断念していないことは被告の自認するところであって、右土地を再び賃借するなどして本件処分場が建設される可能性は否定できないので、右主張も失当である。

六  以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田武聖 裁判官 大島淳司 常盤紀之)

〈以下省略〉

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